祝え!Dies Mirabilisを‼

“Dies Mirabilis”(ディエス・ミラビリス)とは、ラテン語で「奇跡の日」「素晴らしい一日」という意味だそうです。このブログを訪れて下さる皆様一人一人にとって、今日一日が素晴らしい日となりますように!(^^)!

しおりの旅

「しおりの旅」

 

図書館で借りた本に、(しおり)が一枚挟まっていた。
「ニッポンの国宝」と書かれた少し大きめの栞だ。
お世辞にもキレイとは言えない。
特に上の端は、ちょっとしわしわになっていて、古びた感がある。
とは言っても、汚ならしいわけでもないのだ。
こんなことを一瞬の内に、頭で思い巡らしつつ、栞のことはすっかり忘れていた。
 
二、三日後、借りてきた本を読もうとパラパラと頁をめくっていると、
栞が自分の存在を主張してきた。
「忘れたの?」とでも言わんばかりの面持ちだ。
はてな?」私は億劫に思いながらも、手に取って、眺めてみた。
やはり、どうも見覚えがある。
確信とまではいかない。名前が書いてあるわけではないからね。
難しい言葉で言えば、蓋然性というヤツか。
 
いずれにしても、やっぱりコイツは、前に図書館の本に挟んだまま、
半強制的な旅へと送り出してしまった、あの栞らしい。
「こいつは参ったな」心の中でそうつぶやきながら、私はニマリとした。
私はこやつのささやかな家出を想像してみた。
 
栞なんて、特に思い入れがあるわけでもない。どれだって、大して変わりゃしないさ。だから、思いがけない旅にもなったんだし。
でも、こうして不意の帰還に遭遇してみると、何やら愛くるしさが生まれてくる。
図書館の係の人が、取っといてくれて、何かの表紙にこの本に挟んでくれたんだろうか。
はたまた別の誰かさんが、何冊か本を借り、とある本から違う本へと移されて、周り回って、私のもとに戻ってくる羽目になったのだろうか。
 
今回は無事帰って来られたが、今度またいつ「家出」するとも限らない。
名前を書いておこうか、とペンを取って、またペンを置いた。
もう少し長い「不意の」旅へと送り出してやろうじゃないか。
 
そう思い立って、栞を本の一番後ろ、裏表紙の布団で寝かせてやることにした。